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2022/03/06 16:06



時を伝えるという道具が、寛ぐべき空間の中で主張しすぎないようにするにはどうすべきか。
窓からふと風が舞い込んできたかのような優しい存在感で時を刻むものがつくれないか。

そんな思いから、まずは徹底的に要素を削ぎ落としました。
これ以上削れないくらいギリギリのところまで無くし、
残ったものは文字盤と針だけです。

要素を削ぎ落とした中でも、「動き続ける機械」という
時計の最大の道具たる特性を感じるために、秒針は残しています。
それにより、ふと見えたときに時を刻んでいることがわかります。

またムーブメントを隠すために存在していたフレームも思い切って無くすことで、
文字盤と壁との間に影が生まれ、時計が浮いているようにも見えます。
壁の真下や真横から覗かない限り、ムーブメントが見えることはありません。

ここまで要素を無くすと、機能的に一見心もとなく見えるかもしれませんが、
人間のこれまでの経験則から、指標がなくても大体の時間は判別が可能であると判断しました。
実際に自宅に取り付けて使用していますが、特に問題なく時刻を把握できています。

文字盤の表面は、円を描くように手作業でランダムに傷をつけ、程よく鈍く光る具合を狙っています。
酸化による変化の早い真鍮や銅の表面には蜜蝋という、蜂が作る自然のロウを熱を加えながら薄くコーティングし、その後再度表情を確認しながら微細な傷をつけています。そうすることで自然な艶消し仕上げとなり、どこか角のとれた、唯一無二の優しい表情が生まれます。そして徐々にではありますが、しっかりと、その場の空気を取り込んで経年変化していきます。
時刻の経過とともに、文字盤も刻々を表情を変えていくわけです。

時計単体の魅力を考えるというよりは、それを内包する建築というレベルまで視野を広げることによって、
時計というものが半分建築と一体化したような、素材の魅力を最大限活かしつつ空間に調和するものに近づいたのではないかと感じています。

部屋に溶け込み、静かに時を刻む。
シンプルながらも、時間をかけて深い味わいに変化していく時計です。

変化を許容し、むしろ良いものとして受け入れる感性で味わってみてはいかがでしょうか。

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